はじめに
2ちゃんねるで有名な「電力会社の違いでも味付けに差がでる」と呼ばれるテキストがある。これは、コピペと呼ばれている。同一文章をコピー&ペーストで張ることから呼ばれている。なぜ、張られるのかというと、目的の一つにレスをもらいやすいというのがある。まあそういう話はおいておいて、このテキストとはどんなものだろうか。
有名なので知っている人も多いかと思うが引用。
電源コードを変えると音が変わるのはピュア界では常識です。
私は発電所から専用線で我が家まで電力を引っ張り込んでいます。
電線の材質は無酸素銅が最高ですよ。
おかげで、ウチはミニコンですが、ハイエンドよりいい音がしますよ。ちなみに電力会社の違いでも味付けにサがでるよ。
電力会社 長所 短所 お奨め度
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東京電力 バランス モッサリ遅い C
中部電力 低域量感 低域強すぎ A+
関西電力 高域ヌケ 特徴薄い B
中国電力 透明感 低域薄い B+
北陸電力 ウェットな艶 低域薄い A-
東北電力 密度とSN 低域薄い A+
四国電力 色彩感と温度 低域薄い A
九州電力 バランス 距離感 C
北海道電力 低域品質 音場狭い B-
沖縄電力 中高域艶 モッサリ遅い Aで、上は発電所から5Km地点での特徴。
それより自宅~発電所間の距離が長いと上記特徴+マイルドの味付け
短いと上記特徴+刺激的な味付けが加わるよ。
これが本当なのかどうか。そういうことはここでは議論しない。今回こういう長所・短所にかいてあるオーディオ用語をDSPで再現できるならどうやって設計すればいいか考えたいと思う。
というわけで、まずは下調べとしてオーディオ用語を音響信号処理に置き換えたらどうなるんだろうかという観点から調べていきたい。
調査するオーディオ用語
今回考察するのは以下のオーディオ用語である。
- 艶のある音
- ウェットな音
- 特徴が薄い音
- 透明感のある音
- もっさりとした音
- エッジのある音
- 色彩感と温度がある音
艶のある音
「艶のある音」の説明がある部分を調査する。
493 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 投稿日: 2011/03/25(金) 00:08:03.80 ID:+oWIAQCQ
音の艶とは言葉でいうとどのような事なのでしょうか?
このスピーカーは艶っぽい音がでるとかって表現があったりしますが
ぜんぜんわからなくて・・・・。
例えば女性ボーカルの声でいうとどんな感じのものをいうのでしょうか??494 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 投稿日: 2011/03/25(金) 00:29:20.62 ID:aVfXF9Ko
音の艶を言葉で言うとおとのつやだと思うけど。
極弱いエコーに近い感じだと私は思ってる、
皆が皆単語に対して同じ内容を言ってるかは自信無い。495 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日: 2011/03/25(金) 00:35:22.85 ID:fD54j/Q2
>>493
「艶」ねえ。なんとなくわかるんだが説明しにくいわなあ。
たとえば♪I’m issinng you~とか歌ったとき、
①艶のない音・・・やっぱり、貴方がいなくて寂しいなあ(以前はすべて楽しかったのに・・・)
②艶のある音・・・貴方がいない、すごく寂しい(考えただけで濡れてしまうの・・・)
というふうに聞こえるような違いかなあ。再生音の特徴としては中音に特徴(的なピーク)があるんだろうねw
Sound Field ~オーディオのまとめ~の音の艶 -つや- とはいったいなににまとめられた
超初心者のための質問スレッド★スピーカー編 46★より
他には、動画として「艶のある音」の説明がある。動画の音声を確認すると、495の匿名希望さんの書き込み中音(1000Hz~8000Hz?)を強調した感じがある。
他に調べてみたが、これ以上の情報は見つからなかった。とりあえず、艶のある音とは、1000Hz~8000Hzぐらいの周波数帯域を強調した音とする。これはピーキングフィルタに通すことで実装可能である。
ウェットな音
文字通り解釈
文字通りに解釈すると、ウェットというのは濡れた音である。濡れているということは、文字が滲んだりすることで、画像信号処理で言えば、低域強調フィルタ(平均値フィルタ・ガウシアンフィルタなど)に相当する。これを音声信号処理で置き換えると、低音が強い音だということだろうか。
正式なDTM用語
色々と解釈していたが、調査すると違うことが分かった。
DTMの現場ではよく【ドライ】と【ウェット】という言葉が使われます。
【ドライな音】というのは、エフェクトがあまりかかっていない音、
もしくは全くエフェクトがかかっていない音のことを表します。【ウェットな音】というのは逆に、
エフェクトがたっぷりかかっている音のことを表します。
この場合のエフェクトというのは、主にリバーブの場合が多いですね。つまり、リバーブをほとんどかけてない音が【ドライな音】で、
リバーブをかけている音が【ウェットな音】と考えていいと思います。
さらに調べていくと、以前購入したZOOMのマルチエフェクタRFX-300の説明書にも「Wet Mute」「Dry Thru」などの単語が使われており、企業でも使用している正しい専門用語であるといえる。
これらの調査から、ウェットな音はリバーブ処理をかけた音とする。
補足だが、もしも「ウェットな音からドライな音に変更したい」と思った場合は、リバーブを消さないといけないので、リバーブのインパルス応答を推定して、逆畳み込み処理を行う必要がある。従って、ドライな音への変更は非現実的な処理が必要であるため、無理な話だと考えよう。
特徴が薄い音
薄い音とは
「薄い音」を調べると以下のように使われている。
202 : ドレミファ名無シド : 2008/07/23(水) 21:21:17 ID:m6yhtgw3 [4回発言]
>>200亀か・・・俺には薄い音って言うかなんか均一な音に聞こえるから余り好きじゃないな。
今思ったんだけど鳴り=アッタクっていう認識?▼ピック総合スレ part11▲より引用
上記の会話で出てくる「均一な音」は、画像信号処理で言えば、ヒストグラムの平坦化処理にあたる。音声信号処理で置き換えると振幅値ヒストグラムの平坦化なので、薄い音とはコンプレッサー処理をかけたような音で代用できる。
特徴が薄い音とは
今回は「特徴が薄い音」である。つまり、音声に「何らかの特徴を付ける」というのが一般的(?)だが、これはそれを行わないという意味だと考えられる。つまり、何も信号処理を行わなければ再現できる。
透明感のある音
S/N比が大きい音のこと
「透明感のある音」を調べると以下のように使われている。
透明感・S/N感・歪感・雑味:音の透明感は高いほど澄んだクリアな音ということになる。
S/N感はシグナル(Signal)とノイズ(Noise)と割合で分母のノイズ(N)が
低いほど全体として数値が高くなるからS/N感は高いほど一般的に音質は良好とされる。
歪感は音の歪み具合でこれは低いほど元の音に近い正確な音(原音忠実)ということになる。
歪みが負に目立つ場合は<雑味がある>などともいう。
スピーカーの存在感の無化は透明感とは違うが、
様々な音像がハッキリとクリアにきこえる音の場合は<音離れが良い>などともいう。CRAZY HALさんのサイト浸食HAL脳の耳(みみ)通信 Vol.4/音の表現用語より
上記のことから透明感がある音は、S/N比が大きい音と考えられる。
S/N比を大きくする。つまり、ノイズを削除するために簡単な方法としてスペクトルサブトラクション法がある。これは、あらかじめ音が含まれていないノイズ部分の音を、楽曲の流れている区間の音に対して減算処理を行うことで実装できる。より具体的には、振幅スペクトル部分のみに減算を行い、位相スペクトルは原音のを利用する。これは、常に同一の音量レベルとノイズが含まれているときに効力を発揮する。
補足として、上記の方法は別にベイズ推定を利用した音声強調に、MMSE-STSA法があり、これは携帯電話で広く使われている。
手っ取り早く、透明感のある音を簡単に楽しみたい場合は、周囲の雑音を低減させるノイズキャンセラがついたイヤホンを使用すればよいと考えられる。
中域~高域の周波数帯域が聞き取りやすい音のこと
さらに調べると、「透明感のある音」は別の意味でも利用されている。
透明感があり、音のレンジ感が広く軽快な音
ELACの良さの一つは「透明感」です。音のレンジ感が広く、中高域がクリアです。
低域が重々しくなく、軽快にリズムを刻みます。
全体にわたってきわめて透明でありながら、芯がしっかりしているので、クラシックだけでなくポップス、現代曲にもマッチします。
上記の解説からは、透明感が中高域の音量レベルのダイナミックレンジが広いことを指すようにも見える。この解説は、元々スピーカーの話なので、小さな音から大きな音まで、低い周波数帯域以外では、再現性が優れている。つまり低い周波数帯域以外では、周波数特性がフラットであるということなのだろうか。逆に言えば、透明感がある音は、スピーカーの周波数特性がフラットならば、低い周波数帯域の音量を下げたりすれば作れるのかもしれない。
コーラス処理をかけた音のこと
他にも次のように解説している場合もある。
透明感のある音とはコーラス処理をかけた音
透明感のある音とは
解釈は人よって揺れているが、今回は、大学講師が言っている真ん中のを採用したいと思う。
低い周波数帯域の音量を下げるには、ローシェルビングフィルタに通すことで実装可能である。余力があれば他の解釈である、コーラス、スペクトルサブトラクションなど全てを実装するのも面白いかもしれない。
もっさりとした音
「もっさりとした音」を調べると以下のように使われている。
音のバランスはおおよそフラット。細かく言えば低音寄りのかまぼこ。
派手なドンシャリではないため全体的にもっさりとした音。
上記の解説から。もっさりした音とは、低域の周波数帯域が他の帯域に比べて強調されているような音とする。
元々、もっさりという言葉自体、重たいイメージがある。つまり、重たいものは固有振動の式でMが大きいため、低い周波数帯域という関連があるとも考えられます。
音声信号処理ではローシェルビングフィルタに通すことでもっさりした音を実装可能となります。
エッジのある音
「エッジのある音」を調べると以下のように使われている。
当時使っていたCDP(DENON DCD1650AL)の音に不満(良く言えばエッジのきつくない音、悪く言えばもっさりした音)
使用例から分かるように、先ほどのもっさりした音と関連しており、エッジのある音とは、低い周波数帯域に比べて、高い周波数帯域の音が大きな音であることが分かる。
なお、エッジという言葉は、英語の鋭さをあらわし、高い周波数と関連がある言葉である。画像信号処理では、鮮鋭化処理(ラプラシアンフィルタなど)に相当し、音声信号処理ではハイシェルビングフィルタに通すことで実装可能となる。
色彩感と温度がある音
「色彩感と温度がある音」とは、四国電力の長所に書いてあるものである。
色彩感と音との関係性
色彩感とは、色の彩度を表してると考える。彩度は、HSV色空間、HLS色空間のSaturationであり、RGBの色から計算で求められるものである。彩度の値が大きいための条件には、他の色の交わりがないことがある。信号処理に例えるならば、白色雑音、つまりノイズが少ないと考えられる。
温度と音との関係性
ここで言う温度とは、色温度を指している可能性が高い。
色温度とは、光の色を表していると考える。例えば、色温度が大きいとするならば、青色っぽい感じを表す。この理由は、可視光線で青色の波長は、赤色に比べて短く、高い周波数を持っているためである。よって、温度がある音とは、高い周波数成分が大きいことを表すのではないだろうか。この説で考えた場合、四国電力の短所の「低域薄い」と意味が一致しており、納得がいく。
色彩感と温度がある音とは
色彩感と温度が良いとはS/N比が大きく、さらに低域の周波数成分が抑えられているような音とする。
おわりに
一見、科学的な言葉ではないように見えるが、画像処理の分野から音声信号処理の分野へ遷移させることで、意外に正しいような音声信号処理が見えてくることが分かった。
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